音楽:ロシア民謡 「黒い瞳」
Dark Eyes (Russian folk song)

絵画:Albert Samuel Anker, Untitled.

( Evgeni Plushenko, Sasha Cohen )


 長野オリンピックを目前にした9年前、1997年のグランプリ・シリーズ ドイツ大会。
 この大会では、当時私が大ファンであり、長野で金メダルを取ることになるロシアのイリヤ・クーリックが優勝しました。
 美少年クーリックの演技にキャーキャーとミーハーしながら見ていると、クーリックと同じロシアの選手が登場しました。
 北欧やロシアでよく見られるような薄い金髪…。華奢で小さな肩。うわ、まだ子どもじゃない…、それが第一印象でした。
 そのロシア少年はいきなりとても高いジャンプを飛んで…そして失敗しました。当時はカナダのエルビス・ストイコ以外ほとんど成功していない、あの四回転に挑戦したのです。
 悔しそうな顔で演技を続け、なんとまた四回転に挑戦し、そしてまた失敗しました。

 その少年が15歳のエフゲニー・プルシェンコでした。
 翌年の長野オリンピックにはイリヤ・クーリックとアレクセイ・ヤグディンの2人が出場し、優勝したクーリックはその年の世界選手権には出場しませんでした。
 代わりに出場したのがプルシェンコで、みごと世界選手権で3位となりました。エキシビションで赤いロシアの民族衣装を着て踊ってくれて、少年の彼は、まるでロシア土産のお人形のようでした。

 そして同じ年のグランプリ・シリーズカナダ大会、長野オリンピックの銀メダリスト、四回転の王様エルビス・ストイコが出場した大会で、1年でぐっと身長も伸び、青年らしくなったプルシェンコが出場し、みごとに四回転を成功させ、優勝しました。

 その後の彼は4-3-3の脅威の三連続ジャンプを成功させたり、男子では彼しかできないビールマン・スピンで魅了させ、若くして世界王者となりました。
 そしてもう1人のロシアの天才、アレクセイ・ヤグディンとの火花を散らすトップ争いが続き、人気の方も二分しました。
 私は熱烈なプルシェンコ派でした。
 彼の四回転や三連続ジャンプにも魅せられましたが、ビールマン・スピンなどで見せる、男性も女性も超えた柔らかさしなやかさ、きれいなネコ科の生き物のような美しい演技に惹きつけられました。

 けれど2002年のソルトレイク・オリンピックのショート・プログラムで、プルシェンコは四回転でまさかの転倒をし、5位のスタート。
 フリーでは挽回して、それでもヤグディンには勝てず銀メダルとなり、記者会見で、銀メダルを自分の首からはずしました。

 そして四年後の2006年、トリノ・オリンピックでようやく念願の金メダル。
 長い道のり。でも涙はありませんでした。
 喜びのインタビュー。
「信じられないかもしれないけれど、これが僕の夢だったんだ。本当だよ」
 涙涙涙の会見かと…思わなかったけれど、やっぱり。
「金メダルを取るのに必要な仕事をこなしただけ」
 素晴らしい傲慢ぶり!

 そして引退について聞かれて…
「なんで引退しなければならない? 次の五輪ではまだ27歳。まだまだ行けるさ」

 その言葉に喜びで胸がいっぱいになりました。
 やった〜!続けてくれるのね!
 ジェーニャ!ありがとう!
 怪我でできなかったビールマン復活希望!
 ストラヴィンスキーの音楽使ってくれること希望!

 少年時代の彼がSPで使っていたロシア民謡「黒い瞳」を流しつつ、ジェーニャへ心からのおめでとうを!

「スケートをするのが大好き。優勝するのも大好き。それが僕の人生さ」

 トリノ・オリンピックで彼が使用した曲は、SPが『トスカ』より「星は光りぬ」、FSが『ゴッド・ファーザー』でした。