音楽:ビゼー 歌劇『カルメン』より 「花の歌」
Georges Bizet, La Fleur que tu m'avais jetée (Carmen).
絵画:フランク・クーパー 「つれなき美女」
Frank Cowper, La Belle Dame Sans Merci. 1926.
Evan LYSACEK 2005-06 Long Program
Don José
La fleur que tu m'avais jetée
Dans ma prison m'était restée,
Flétrie et sèche, cette fleur
Gardait toujours sa douce odeur; |
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ドン・ホセ
おまえが投げた この花を
俺は牢の中でも手放さなかった
しぼんで ひからびてしまっても
甘い匂いは変わらなかった |
Et pendant des heures entières
sur mes yeux fermant mes paupières,
De cette odeur je m'enivrais
Et dans la nuit je te voyais! |
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何時間も 何時間も じっと
まぶたを閉じたまま
その匂いに酔いしれながら
闇の中で おまえを 思い浮かべた |
Je me prenais à te maudire,
A te détester, à me dire;
Pourquoi faut-il que le destin
L'ait mise là sur mon chemin? |
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おまえを呪ってやりたいと思った
おまえを憎んで こう言いかけた
なんでまた あんな女に
俺はめぐりあったんだろう?と |
Puis, je m'accusais de blasphème,
Et je ne sentais en moi-même
Qu'un seul désir, un seul espoir,
Te revoir, Carmen, oui, te revoir! |
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そのあとで そんな自分を責め立てて
気がつけば 俺の望みはただひとつ
ただひとつ 希望はひとつ もう一度 おまえに会うこと
おお、カルメン!おまえに会うことだけ! |
Car tu n'avais eu qu'à paraître,
Qu'à jeter un regard sur moi,
Pour t'emparer de tout mon être,
O ma Carmen!
Et J'étais une chose à toi! Carmen, je t'aime! |
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なぜなら おまえはやってきて
俺をちらりと見ただけで
もう 俺をとりこにしてしまったんだ
おお!俺のカルメン!
俺はおまえのものだったんだ!
カルメン!おまえを愛している! |
歌劇『カルメン』の中の、ホセのアリア「花の歌」は、彼の愛の深さ激しさが、胸に迫ってきます。
美しく気の強いカルメンは、仲間の女たちと喧嘩して、牢獄に入れられるはずでした。けれど彼女を捕まえた衛兵のドン・ホセは、カルメンの誘惑に負け、彼女を逃がしてしまいます。そしてその罪で彼自身が投獄されてしまいます。1月後に出てきたホセを、またカルメンが歌い踊り、誘い、悪事の道へと引き込もうとします。
それでも兵営に帰ろうとするホセに、あんたはあたしのこのなんて愛していないんだわとカルメンは言います。そんなカルメンにホセが、どれほど彼女を愛しているのかと歌うのが、この歌です。
男子シングル、アメリカのエヴァン・ライサチェック選手の2005-2006年のフリーがこの『カルメン』です。
彼の演技は、このホセのアリアがこれ以上似合う人はいないんじゃないかと思うくらい、情熱的でセクシーで素敵でした。
この演技で彼は、トリノ・オリンピックで4位、2006年世界選手権で銅メダルとなりました。
オリンピックではインフルエンザ、世界選手権では胸痛に苦しめられるという最悪の体調で、共にSPで失敗し、オリンピックではSP10位、世界選手権ではSP7位で、この『カルメン』のフリーで大逆転しました。
特に世界選手権では、これまで跳ばなかった4回転も跳んでの銅メダルでした。
実はこのシーズン、ライサチェックは、最初、別の曲を使用していました。
彼はグランプリ・シリーズには、アメリカ大会とNHK杯に出場しましたが、アメリカ大会では別の曲で点数がのびず(でも2位)、NHK杯でこのフリーを初披露してくれました(2位)。このアメリカ大会で1位だったのは高橋大輔君、NHK杯で1位だったのが織田信成君でした。
彼の運命を大きく変えた素晴らしいプログラムでした。
衣装は全身黒づくめ、シャツには細かいひだが入っていて、さりげなく凝っています。ジャン・フランコ・フェレのデザインだそうです(ジョニー・ウィアー君談)。ポイントに、首に赤い布を巻きつけていました。
この衣装を着ると、彼の長い手足がより一層引き立って、素顔はまだ少年らしさが残っているのに、とても魅力的な男の人に思えました。
磨けば磨くほどに、素晴らしくなっていくプログラム。ジャンプもスピンも素晴らしかったけれど、腕や手、顔の表情、全身を使った表現が素晴らしく、何度見ても胸に迫ってくるものがありました。
私が観にいった、2005年の東京開催、グランプリ・ファイナルに、彼は選ばれていましたが、怪我で出場できず、会えなかったのが心残りです。彼のホセに会いたかった!
ライサチェックのフリーの前半はこの「花の歌」ですが、後半は「闘牛士の歌」になります。
おまけで、英語訳の「花の歌」も。
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The flower that you tossed to me
In my prison stayed with me.
Withered and dried, this flower
Kept always its sweet odor
And during all of the hours,
Over my eyes closed my eyelids,
I became intoxicated with this odor
And in the night I saw you!
I became accustomed to cursing you,
To detesting you, to saying to myself :
Why is it necessary for destiny
To put herself there on my path?
Then I accused myself of blasphey
And I didn't feel but in myself
I didn't feel but one desire
A sole desire, a sole hope
To see you again, oh Carmen, to see you again!
For you had only to appear
Only to toss a glance towards me
In order to take a hold of all my being
Oh my Carmen!
And I was yours
Carmen, I love you!
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フランク・クーパー 「眠るタイタニア」
Frank Cowper, Titania Sleeps, 1928.
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