音楽:アンチェインド・メロディ
Unchained Melody


彫刻:アントニオ・カノーヴァ 「アモールとプシュケ」
Antonio Canova, Amor and Psyche, 1786-93.
Courtesy of Web Gallary of Art


Johnny Weir
2005-2006, Exhibiton



 2005-2006シーズンの、ジョニー・ウィアーのエキシビションの曲「Unchained Melody」は、映画『ゴースト ニューヨークの幻』で流れていたことでも有名です。この曲にのって、カルガリー五輪金メダリストのブライアン・ボイタノばりの、片手上げジャンプ、ラストにはスピンの後、華麗にのけぞってくれるのが印象的でした。
 映像では何度も見ていますが、日本では未披露です。

 最初に見たのは、2005年1月にの全米選手権で2度目のチャンピオンになった時のエキシビションでした。まだ完璧にすべりきれなくて、スピンの後、ペタッと、いわゆる女の子座りをして、半分くらいのけぞっている姿が、なんとも言えずキュートでした。

 2005年12月にアメリカで開かれた大会「マーシャルズ・チャレンジ」でも、この曲をすべりました。
 アメリカの男女トップスケーター4人が出場し、第1ラウンドで勝ち抜いた2人が決勝に進出、第2ラウンドで優勝を決めるというもので、審査員は、会場の観客と、テレビを見ている視聴者の投票という、ユニークなものでした。
 演技の途中、ジョニーは転倒しましたが、この放送は生中継中で、放送中、技術的トラブルが発生し、映像が中断し、なんとその転倒の部分が放送されなかったのです。
 出場選手4人、ジョニー、ティモシー・ゲーブル、マイケル・ワイス、マシュー・サボイの中で、第1ラウンドで、ジョニーだけが失敗したにも関わらず、そのことを知らなかった視聴者は、ジョニー君に投票、みごと1位通過し、第2ラウンドでは美しい演技を披露し、優勝してしまいました。


Bust of Ganymede
Paris, Musee du Louvre.
2006年に開催された「ルーブル美術館展」で展示されたガニュメデス像。
ジョニー君に似ていました。
Courtesy of Wikipedia



 翌年1月に、ジョニーは全米選手権3度目の優勝、そして2月にトリノ・オリンピックに出場し、SPの時点で2位になるものの、フリーで満足のいく演技ができず、5位にとどまります。
 3月の世界選手権では、背中の痛みから、良い演技ができず7位となります。

 その後、4月に再び「マーシャルズ・チャレンジ」が開かれますが、試合ではなくアイスショーの形のものでした。
 その時、すべったのが「Unchained Melody」と「My Way」で、テレビで流れたのは「Unchained Melody」の方だけでした。

 とても丁寧で美しい演技でした。
 あまりに完璧に、一つ一つの技をこなすので、それだけに、オリンピックと世界選手権が、何故?と、せつなさもこみあげてきました。
 ただ、表情は暗く、ずっとつらい思いをしただろうかと心配しつつ、体の方は、これだけの演技ができるのだから、大丈夫なのだろうと思いました。それでも、心配でしたが。

 その時のテレビの解説者の言葉が、ずっと心を離れずにいます。
「彼は素晴らしい才能の持ち主ですが、観客と心を通わせてはいません。たとえ、無観客であっても、同じように完璧にすべるでしょう」
 最初は、なんてひどいことを言うのだろうと思いましたが、どこかで、確かにそんな風にも見えると思いました。
 2006年の三度目の全米選手権優勝の時と、トリノ・オリンピック5位の時のエキシビション、共にすべった「My Way」は、どちらも完璧に美しかった。嬉しい時にも、悲しい時にも、どちらの時も完璧に。
 でも…、2004年に、ジョニーがグランプリ・シリーズで初優勝したNHK杯でのエキシビション「Imagine」は、明るい笑顔でアンコールに答え、心は通い合っていたように思います。
 笑えるのに…。
 放送を見ながら、「日本においで。日本に…」と、何度も思いました。

 そして、マーシャルの3ヵ月後の7月に、横浜で開催されたアイス・ショー「ドリーム・オン・アイス(DOI)」。
 ゲストで来たジョニーは、一番人気で、ファンである私も、こんなに人気があったのかと驚きました。何よりも、ジョニー自身が驚いたことでしょう。
 この時披露したのは「My Way」。本人も納得のいく素晴らしい演技で、会場を魅了させたことも、大いにありました。
 3日間4公演、私が見た最終日は、クールだと思っていた彼が笑顔いっぱいに,、観客と目を合わせながら演技する、奇跡を見ました。
 フィナーレ後に、リンクを囲んだファン一人一人と握手したことも、既に伝説となりつつあります。
 幸運にも、私も握手をすることができました。信じられないことに、頬までくっつけていただきました。


Oh, my love, my darling,
I've hungered for your touch
A long lonely time
And time goes by so slowly
And time can do so much.
Are you still mine?


愛する 私の大切な人
あなたに 触れたくてたまらない
長い 孤独な時間
時は ゆっくりと 過ぎてゆく
時は 多くを 変えてしまう
あなたは まだ 私を想っていてくれるのでしょうか?


 ─ I've hungered for your touch
 触れることなど、思いもよらず、考えもしませんでした。
 …夢には見たけれど。
 だからDOIは、とても、幸せな幸せな、思い出となりました。

 ─ Time goes by so slowly and time can do so much. Are you still mine?
 ずっと時が過ぎても、あなたも、あなたの美しい演技も、忘れることなど、ないでしょう。


Antonio Canova, Amor and Psyche, 1786-93.
Courtesy of Web Gallary of Art