音楽:オルフ 『カルミナ・ブラーナ』より 「おお、運命の女神よ」
Carl Orff, O Fortuna (Carmina Burana).

絵画:ピーテル・ブリューゲル 「反逆天使の墜落」
Pieter Brueghel, The Fall of the Rebel Angels, 1562.

Marina Anissina & Gwendal Peizerat
1999-2000 Free Dance



 アイス・ダンスのフリー・ダンスで、もっとも好きなものの一つが、フランスのマリナ・アニシナ&グェンダル・ペイゼラの「カルミナ・ブラーナ」です。

 『カルミナ・ブラーナ(ボイレンの歌集の意)』は、南ドイツのボイレン修道院に残された中世の詩集です。歌詞の内容は、怒りや恋愛、酒に性、社会風刺に批判など、世俗的なものが多く、おそらくこの修道院にいた、若い学生や修道僧たちによるものと考えられています。
 全部で250篇以上の詩が含まれていますが、そのうち作曲家のカール・オルフが、4つの詩を選んで曲をつけたのが、この壮大な『カルミナ・ブラーナ』で、アニシナ&ペイゼラが使っているのは、その中の「おお、運命の女神よ」です。
 
 最初の長いリフト、アニシナが天を見上げ、手を大きく広げるところから、劇的で素晴らしかったです。ストーリーは特になく、音楽そのものを表現する、モダン・バレエのような作品でした。この曲を聴いても分かる通り、スローな部分がなく、2人はずっと激しく踊り続け、アニシナの赤い髪とペイゼラの金の髪が、回り、駆け抜け、まるで激しく燃える炎を観ているようでした。
 女性のアニシナは、赤い髪に目も口もとても大きく、「情熱の女」や男性を破滅させる「運命の女(ファム・ファタル)」的な雰囲気を持つ女性。男性のペイゼラは、細かいカールしたブロンドの、王子様や貴公子風の美青年。一見アンバランスなのですが、それがかえって、2人の個々の魅力を、より情熱的に、より美しく、倍増させていました。
 女性のアニシナがペイゼラをリフトする、この2人ならではの技も素晴らしかったです。ペイゼラが繊細系(優男系とも…?(笑))で、アニシナが力強く見えるので、この技は本当に2人に似合っていました。前年まではこのリフトは少し不安定にも見えましたが、この頃はすっかり安定していました。
 振り返ると、この2人はかなり密着して、絡み合って踊り、官能的であるにも関わらず、不思議なことに、情熱的な恋人同士には見えなかったように思います。

 そして、既に1998年の長野オリンピックで銅メダリストであったアニシナ&ペイゼラは、この『カルミナ・ブラーナ』をFDにした1999-2000年シーズンの世界選手権で、みごと初優勝を飾りました。
 そして2002年のソルトレイク・オリンピックで金メダリストとなり、それ以降はプロとして活動しています。



ロセッティ 「ウェヌス・ウェルティコルディア」
Dante Gabriel Rossetti, Venus Verticordia, 1864-68.


燃えるような赤い髪、大きな目と官能的な唇、
ロセッティの絵の女性は、私の中のアニシナさんのイメージです。




ジャン・デルヴィル 「パルジファル」
Jean Delville, Parsifal, 1890.


ワーグナーのオペラに登場する清らかな愚か者、パルジファル。
デルヴィルのパルジファルは、金髪の美しい若者。
ペイゼラさんを思い出しました。