音楽:ワーグナー 歌劇『トリスタンとイゾルデ』より 前奏曲
Richard Wagner, Prelude from "Tristan und Isolde"

絵画:ジャン・デルヴィル 「トリスタンとイゾルデ」
Jean Delville, Tristan and Yseult, 1887.

Jeffrey BUTTLE
2005 Long program
"Tribute to Canadian Pianist Glenn Gould"


 カナダのジェフリー・バトルの2005年のフリー・スケーティングは、「グレン・グールドに捧げるクラシックバリエーション」でした。
 ワーグナーの歌劇『トリスタンとイゾルデ』から前奏曲、そしてグールドの弾く、バッハ、シェーンベルク、スクリャービンのピアノが流れます。

 グレン・グールド(Glenn Herbert Gould, 1932-1982)は、カナダの天才ピアニストです。
 1945年にオルガン奏者としてデビューし、1946年に行われたトロント交響楽団との共演でピアニストとしてもデビューしました。
 テンポを強調した独自の解釈、斬新な演奏は、当初批評から批判を浴びましたが、次第に受け入れられるようになり、1956年に初のアルバム、J・S・バッハの「ゴールドベルク変奏曲」は、世界中にセンセーションを巻き起こしました。
 しかしグールドはコンサートを嫌い、人気絶頂にも関わらず、1964年に聴衆の前での演奏活動を休止します。そして50歳の若さで亡くなるまで、録音のみを発表し続けました。

 このカナダの偉大なピアニスト、グレン・グールドに捧げるプログラムを、カナダの選手がすべるというのはとても素敵なことでした。
 選んだ曲は、グールドの演奏の中でも、ポピュラーなものと、あまり知られていないものを、断片的に組み合わせるという、たいへん凝ったものでした。
 とても上品で美しいプログラムで、特に「トリスタンとイゾルデ」にのせて、すーっと流れていくイナバウアーは魅せられましたが、ジャンプのタイミングを取るのが難しいのか、ジャンプの失敗が目立ち、またグランプリ・シリーズカナダ大会では、転んだ時にズボンが破けて怪我をしたり、GPSファイナルでは、演技の直前に、靴のねじが緩んでいると直したりと、アクシデント続きでした。
 成績自体は悪くなかったものの(GPSカナダ大会2位 フランス大会1位 GPファイナル2位)、より上位を目指すためか、グランプリ・ファイナル終了後、フリーを変更し、翌年2006年のトリノ・オリンピックでは、2003-04年のフリー『サムソンとデリラ』をすべりました。結果は銅メダルという素晴らしい成績で、選択としてはよかったと思いますが、心密かに、私にとってバトルの作品で、エキシビションの「アヴェ・マリア」と共に、もっとも好きな作品なのです。

 トリノ・オリンピックの後の2006年世界選手権は、バトルの地元であるカナダ、カルガリーで開催され、結果は6位でしたが、地元選手ということで、エキシビションにも参加しました。
 そしてこの時のエキシビションですべったのが、この「グレン・グールド」のプログラムでした。このプログラムのために作った銀色の美しい衣装を着、グールドの故郷でもあるカナダですべる姿は、とても感動的でした。


Glenn Gould (1932 - 1982)

 バトルのFS「グレン・グールドに捧げるクラシックバリエーション」の、曲の構成は、以下の通りです。 (ご協力:フルヤマ様)
 [MIDI]と書いてあるものは、曲名をクリックすると、MIDIを聞くことができます。


ワーグナー 歌劇『トリスタンとイゾルデ』より 第1幕 前奏曲
[MIDI] Richard Wagner, Prelude from "Tristan und Isolde"


シェーンベルク 6つのピアノ小品 作品19 Leicht, zart
[MIDI] Arnold Schönberg, Sechs kleine Klavierstucke, op.19, Leicht, zart


「トリスタンとイゾルデ」(再び)
[MIDI] Tristan und Isolde (again)


スクリャービン 舞い踊る愛撫(2つの小品〜作品57-2)
Aleksander Scriabin, Morceaux, Op. 57: No. 2: Caresse dansee.

「トリスタンとイゾルデ」(再び)
[MIDI] Tristan und Isolde (again)


J・S・バッハ ゴールドベルク変奏曲 第16変奏
[MIDI] J.S.Bach, Goldberg Variations,BWV988 Variation 16 Ouverture a 1 Clav.


J・S・バッハ:平均率クラヴィーア曲集第1巻第2曲 BWV847 前奏曲
[MIDI] J.S.Bach, Well-tempered Clavier, Book I, Prelude No.2 in C-, BWV847.


シェーンベルク ピアノ組曲 作品25 Gigue.Rasch
Arnold Schönberg, Suite for Piano, Op.25, Gigue.Rasch

J・S・バッハ:マルチェルロの主題による協奏曲 BWV974 アダージョ
[MIDI] J.S.Bach, Concerto No.3, BWV974 (transcr. of oboe concerto by Marcello), Adagio.



 バトルが選んだ曲は、グールドの演奏の中でも、ポピュラーなものと、あまり知られていないものを、断片的に組み合わせるという、たいへん凝ったものでした。
 使用曲について、ご親切に教えてくださった、フルヤマ様に、心から感謝いたします。
 以下は、バトルが使用したと思われるグレン・グールドのCDです。


グレン・グールド CD
シェーンベルク作品集(6つのピアノ小品op.19、ピアノ組曲op.25収録)
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番(スクリャービンの「2つの小品」収録)
バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年デジタル録音)
バッハ:平均律クラヴィーア曲集
未完のイタリアン・アルバム(バッハ マルチェルロの主題による協奏曲収録)



Glenn Gould, 1934.