音楽:ジュール・マスネ 「タイスの瞑想曲」
Jules Massenet, Thaïs - Meditation.


絵画:マックスフィールド・パリッシュ 「眠れる森の美女」
Maxfield Parrish, Sleeping Beauty, 1912.


Elena Berezhnaya & Anton Sikharulidze
2001-2002 Long Program


 ソルトレイク・オリンピックを含む、2001-2002シーズン、オリンピックで金メダリストとなった、ロシアのペア、エレナ・ベレズナヤ&アントン・シハルリドゼのフリー・スケーティングが、この「タイスの瞑想曲」でした。

 エレナ&アントンは、既に1988年の長野オリンピックで銀メダリストとなっていました。
 その時も、最後の最後での転倒がなければ、優勝してもおかしくない、素晴らしい出来でした。
 可憐なエレナにすっかり魅了されていたので、4年間、毎年見られるのは、とても嬉しいことでした。長野後の2シーズンは圧倒的な強さで、金メダルを取るのは確実だと安心して見ていましたが、やはり4年は長く、つらいものがありました。

 1998年と99年の世界選手権で優勝しますが、2000年の世界選手権は、その前に行われたヨーロッパ選手権のドーピング検査で、エレナの気管支炎の薬から禁止薬物が出たことから、三ヶ月の出場停止処分となり、欠場となりました。
 そして翌2000-2001シーズンの世界選手権では、代表作であるフリー「チャップリン」で、素晴らしい演技をしましたが、惜しくも2位。
 優勝は、先シーズンから急成長してきた、カナダのジェイミー・サレー&デイヴィッド・ペルティエでした。

 2000-2001と2001-2002シーズン、ロシアの選手にとって気の毒だったのは、開催場所。どの大会でも、地元の選手が持ち上げられるのは仕方のないことですが、このオリンピックを控えた2シーズンの重要な大会は、アメリカ、カナダの北米に集中していました。
 2000-2001シーズンの世界選手権はカナダのバンクーバー、そして2001-2002シーズンのグランプリ・ファイナルもカナダのキッチナー、そしてオリンピックはアメリカのソルトレイクでした。

 そんな不利な条件の中でも、エレナ&アントンの「タイスの瞑想曲」は、静かで溜息が出るほど、美しかったです。
 フィギュアスケートのプログラムの多くは、一つの曲ではなく、スローテンポな曲と、ハイテンポな曲を組み合わせて、それぞれの技の見せ場を作っています。
 ライバルである、サーレ&ペルティエも、ふりーでは、映画『ある愛の詩』のサウンドトラックから、何曲かを組み合わせていました。
 けれど、この「タイスの瞑想曲」のプログラムは、ゆっとりとこの曲を1曲、まるごと使用していました。
 流れるように美しく、自然で、華がありました。
 ただ一ヵ所だけ、アントンのジャンプが両足着地になってしまい、惜しまれる点でした。

 サーレ&ペルティエがノーミスの演技だっただけに、どう評価されるかが心配でしたが、無事に優勝を果たします。
 けれど、ここで審判の不正疑惑が持ち上がります。ロシアとフランスの審判で、ペアではロシア、アイスダンスではフランスを優勝させるために、共に、お互いの国の選手に高い点をつけることになっていたというのです。
 そしてフランスの審判が疑惑を認めたため、改めて金メダルは、ベレズナヤ&シハルリドゼ組、そしてこのサレー&ペルティエ組の両方に渡されるという、異例の結果となりました。
 せいいっぱい演技をした選手たちに罪はなく、2組とも、このオリンピックを最後に引退してしまったため、最後の舞台に後味の悪くなってしまったのは、とても残念でした。



マックスフィールド・パリッシュ 「夢想」
Maxfield Parrish, Reveries, 1913.