音楽:ある愛の詩
Love Story

絵画:ジョルジュ・バルビエ 「ひだ飾りとレース飾り 1926」
George Barbier, Falbalas et fanfreluches 1926 "L'Automne".


Jamie Sale & David Pelletier
1999-2000, 2001-2002, Long Program


どう言ったらいいのだろう、
二十五の若さで死んだ女のことを。
 彼女は美しく、そのうえ聡明だった。
彼女が愛していたもの、
それはモーツァルトとバッハ、
そしてビートルズ。

それにぼく。

(『ある愛の詩』より)



 映画音楽『ある愛の詩』は、ソルトレイク・オリンピック、ペアの金メダリスト、カナダのジェイミー・サレー&デイヴィッド・ペルティエが、1999-2000、2001-2002シーズンのフリー・スケーティングに使用した曲です。

 1999-2000シーズン、特にこのペアを注目していたわけでもなく、何気なくグランプリ・シリーズを見ていて、深く感動したのがこのプログラムでした。
 愛が始まり、明るい光のような幸せな時があり、少しずつ影が落ちていくように、2人に不幸が訪れ、引き裂かれていく。
 “死が2人を分かつまで”、その言葉の通り、死が2人を引き離していく、美しくも悲しい、映画『ある愛の詩』の世界を、数分の短い間に、表現していました。

 特に華のあるペアではありませんでした。ペアやアイスダンスで、目立つペアは、演技はもちろんのこと、女性の美しさに目が行きますが、ジェイミー・サレーは、褐色の髪をポニーテールにした、丸顔で健康的で、“隣のお嬢さん”といった、ごく普通の女の子でした。衣装は、2人とも濃いグレーで、それがより一層、地味に見せていました。
 けれど、素晴らしいのです。演技が。このプログラムには、詩があり、物語があり、愛がありました。衣装ではなく、容姿でもなく、演技がそのものに魅了されました。

 しかし、1999-2000シーズンに、この美しいプログラムは、世界選手権で4位と終わりました。

 2000-2001シーズンのフリーは『トリスタンとイゾルデ』、愛の悲劇を描いたワーグナーのオペラの曲を使用した、美しいプログラムでしたが、『ある愛の詩』に比べると、愛の世界が伝わらず、印象が薄いような気がします。
 けれど、このプログラムは高く評価され、世界選手権で優勝しました。
 翌2001-2002シーズンの終わりには、ソルトレイク・オリンピックがあり、2人は国から大きな期待をかけられました。

 2001-2002シーズン、サレー&ペルティエのプログラムは、ラフマニノフのペイノ協奏曲でしたが、オリンピックを前にして、2人は2年前のプログラム『ある愛の詩』に戻しました。
 その演技は完璧で美しく、2年前よりはるかに成長していて、素晴らしいものでした。

 結果は惜しくも銀メダル。
 金メダルのロシアのエレナ・ベレズナヤ&アントン・シハルリドゼ組は、前回1998年の長野オリンピックの銀メダリストで、女性のエレナは、明るい金髪で儚げな、妖精のように可愛らしいスケーターで、日本でもとても人気があり、私も彼女のファンの1人でした。今回は1ヵ所ミスがあったものの、素晴らしい演技でした。
 けれどそのミスが、大きく問題にされていきます。
 
 既に世界チャンピオンという実力の持ち主で、完璧な演技だったサレー&ペルティエがなぜ2位なのかと、同じ北米であるカナダから、大勢の応援が来ていたこともあり、騒ぎは大きくなりました。
 そして、審判の不正疑惑が、持ち上がります。ロシアとフランスの審判で、ペアではロシア、アイスダンスではフランスを優勝させるために、共に、お互いの国の選手に高い点をつけることになっていたというのです。
 そしてフランスの審判が疑惑を認めたため、改めて金メダルは、ベレズナヤ&シハルリドゼ組、そしてこのサレー&ペルティエ組の両方に渡されるという、異例の結果となりました。

 どちらとも素晴らしい演技で感動させてくれたので、とても残念で、選手が気の毒でなりませんでした。
 ペアのベレズナヤ&シハルリドゼ組、そしてもう一組、疑惑の持ち上がったアイスダンスのカップル、マリナ・アニシナ&グェンダル・ペイゼラ組は、長野オリンピック以降、4年間ずっと応援し続けた大好きな選手たちでした。

 そしてこのようなことが二度と起こらないようにと、フィギュアスケートには、技の一つ一つに点数がつけられる、新採点法が取り入れられていくことになります。

 オリンピックの黒い部分を見てしまったのはとても残念でしたが、選手達の素晴らしい演技と感動には、一点の曇りもありません。
 サレー&ペルティエの『ある愛の詩』は、1999-2000シーズンも、2002年のソルトレイク・オリンピックも、とても美しく感動的でした。

 最後に、映画『ある愛の詩』の、美しい名セリフを。


「愛とは決して後悔しないこと」
(Love means never having to say you're sorry.)




ジョルジュ・バルビエ 「ひだ飾りとレース飾り 1926」
George Barbier, Falbalas et fanfreluches 1926 "L'Hiver"